私たちを追いかける恵みと慈しみ（詩編23編６節）

恵みと悲しみに追われて

「命あるかぎり　恵みと慈しみが私を追う。私は主の家に住もう　日の続くかぎり。」

恵みと慈しみ、これらはどちらも神様の愛の豊かさを現わす言葉で、原文の言葉では、トーブとヘセッドです。

トーブとは「良い」という意味です。神様が、天地万物を造られたとき、それらをすべてご覧になり、良し、トーブと言われました。神様が、人を御自身に似た者として造られたとき、最初の人アダムをご覧になって、極めて良いと言われました。このトーブという言葉が慈しみと訳されています。極めて良いものが私を追う、追いかけてくるとダビデは告白したのです。

ダビデは、イスラエルがペリシテと戦っているとき、大男ゴリアテを倒し、イスラエルに勝利をもたらし、一躍有名になり、サウル王に召し抱えられます。ところが、ダビデが沢山の功績を残す中で、サウル王の嫉妬、敵意、遂には殺意を買い、追われる身になります。ダビデが王になってからは、息子アブサロムの謀反によって、追われる身になりました。ダビデは幾度も敵に追いかけられ、身の危険を覚えました。にもかかわらず、ダビデは、敵に追われ大変だったとは言わず「命あるかぎり、恵みと慈しみが私を追う」と告白しています。

次にヘセッドは、決して私たちを裏切らない、見捨てることのない、変わらない愛。このヘセッドの愛、神の恵みが私を追うとダビデは告白しました。

ダビデは神に愛され、彼も神を愛して歩んでいたのですが、ある時、大きな罪を犯しました。彼はその罪を隠そうとしましたが、神様は預言者を通して、その罪を明らかにしました。ダビデは、心砕かれその罪を認め、深く悔い改めました。

ヘセッドの愛は、その彼の砕かれた心を侮られませんでした。犯した大きな罪の故に、見捨てることはありませんでした。神は、決して変わることのない、失われることのない愛によって、ダビデを愛し続けました。罪を犯したダビデを追いかけてきたのは、罪悪感でも、絶望でもなく、神の恵みによる赦しでした。

私たちは、穏やかに過ごしていても、突然大きな嵐に直面します。また、弱さの中で、罪を犯してしまうことがあります。愛の内にありながら、その愛から離れようとすることがあります。しかし、そのような者を、神の恵みが追いかけてくるのです。懲らしめるためではなく赦すために、もう一度、神の愛の御腕の中に抱きしめるためです。

主イエスは、私たちの罪、痛み、悲しみ、様々な苦悩を背負って十字架で尊い血を流されました。この主の十字架の故に、この地上での命あるかぎり、苦難に追われるのではなく、恵みと慈しみがいつも追いかけてくるのです。

主の家に住もう

「命あるかぎり　恵みと慈しみが私を追う。私は主の家に住もう　日の続く限り。」

そして、恵みと慈しみに追われながら、私たちは遂に主の家にたどりつくのです。

「主の家」とは、二重の意味があります。

ダビデにとって、「主の家」とは、当時エルサレムにあった神殿のこと、主の臨在の場、主がおられるところです。今の私たちにとっては、キリストの体なる教会です。信仰の先達は、教会に集い、主を礼拝し続けました。

今年から浅草橋教会では、聖書協会共同訳聖書を用いておりますが、昨年まで用いていた新共同訳聖書ですと、６節の後半は「主の家にわたしは帰り　生涯、そこにとどまるであろう。」となっています。

主の家とは、この地上での神殿、教会のことであると同時に、永遠の御国のことでもあります。

信仰の先達は、この地上にあって、主の恵みと慈しみに追いかけられながら、主の家に留まり続け、遂には永遠の御国の主の家にたどり着いたのです。

「そして、私は玉座から語りかける大きな声を聞いた。『見よ、神の幕屋が人と共にあり、神が人と共に住み、人は神の民となる。神自ら人と共にいて、その神となり、目から涙をことごとく拭い去ってくださる。もはや死もなく、悲しみも嘆きも痛みもない。最初のものが過ぎ去ったからである。』」（黙示録21・３～４）

この世にあっては、愛する方との別れ、深い悲しみを幾度となく覚えます。しかし、永遠の天の御国では、もはや涙はなく、悲しみも嘆きもありません。そこには、主イエス・キリストの神と共に過ごす永遠の安息があるだけです。

この地上での命が尽きるまで、主の恵みと慈しみが私たちを追いかけてきて、私たちを守り支え導きます。恵みと慈しみは、私たちを追いかけようとする悪を飲み込んでしまいます。その愛の追い風に私たちを乗せ、私たちが永遠の御国、主の家にたどり着く日までを持ち運んでくださいます。